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長崎家庭裁判所 昭和57年(少)1456号 決定 1982年10月28日

少年 A(昭○・○・○生)

主文

少年を教護院(国立a学院)に送致する。

少年に対し、昭和五七年一〇月二八日から昭和五九年三月三一日までの間、通算一〇〇日を限度としてその行動の自由を制限する強制的措置を採ることができる。

理由

(非行事実)

少年は、昭和五六年二月一四日、長崎県○○児童相談所長の措置により教護院であるb学園に入所したが、翌五七年三月四日右学園を無断外出し(同年四月三日所在不明により右措置解除)、以後同年八月三一日ころまでの間定まつた住居もないまま佐賀市内において二日に一回位の割合で街頭において客引をして売春をするなど、保護者の正当な監督に服さず、正当な理由がなく家庭に寄り附かずかつ自己の徳性を害する性癖を有し、その性格、環境に照してこのまま放置すれば将来刑罰法令に触れる行為をする虞れがあるものである。

(適条)

少年法三条一項三号イ、ロ、ニ(同条二項)

(処遇理由)

一  少年は五歳時に家より現金を持ち出して飲食などに費消する行為が発現し、その後同種行為は小学校五年生時まで続いている。その間現金盗や火遊びなどもあつて児童相談所長の一時保護や児童福祉司による指導措置なども受けている。そして昭和五六年一月には二度に渡り家出をし、その間不純異性交遊などもあつたため同年二月一四日には前記b学園入所の措置が採られている。

少年は右入所後は比較的無難に学園生活を送つてきたが、昭和五七年一月三〇日から翌二月二二日までの間に右学園を無断外出した後、前記認定の本件非行に至つている。

二  ところで本件鑑別結果及び調査報告によれば少年は幼少時に父親と生別し、また母親も生計のために少年の養育を等閑にしたこともあつて、基本的な躾も全く身についておらず、依存欲求や愛情欲求の強い社会的にも極めて未熟な状態にあることが窺われる。そして真の意味での愛情豊かな家庭的な養育を受けられなかつたことが少年の本件非行の原因と認められる。

三  そこで少年の処遇について考えるに、初発非行が五歳時と極めて早いこと、少年は六ヶ月もの長きに渡つて住居も定めず売春で生活しており売春が常習化していることなど少年の問題性は極めて大きく、加えて母親は現在高血圧症のため(昭和五七年七月にはくも膜下出血のため手術を受けている)少年を養育する気力も体力もないことを併せ考慮すると、在宅処遇は不相当であり施設内での処遇を相当とするが、少年が未だ一三歳であることや今まで家庭的な養育を受けられなかつたことなどを考慮すると家庭的な雰囲気のなかで少年を教育していくことがより適切であると思料するので、少年を教護院に送致することとする。

なお少年の問題性の大きさ及び六ヶ月もの長きに渡り売春によるとはいえ、自力で生活してきていることを併せ考慮すると容易に逃定できる開放的施設内での処遇では十全の効果を期待できないので、少年を強制的措置の採り得る教護院に送致し、併せて昭和五九年三月三一日までの間に通算一〇〇日を限度として強制的措置を採り得ることとすることを相当と思料する。

(なお本件は少年法六条三項、一八条二項によるいわゆる強制的措置許可申請事件ではないが、主文のとおり教護院送致に併せて強制的措置許可決定をなしているので付言するに、児童福祉法二七条の二及び少年法六条三項において強制的措置を採ることを相当とする少年について、都道府県知事及び児童相談所長(以下知事等という)は常に強制的措置申請をなすべきものとして義務付けたものとは解されず、むしろ強制的措置申請をなすか否かは知事等の適正な自由裁量に委ねられているものと解される。加えて強制的措置許可決定がなされた後においても、当該児童に対し強制的措置を採るか否か、採るとして(付された制限内で)どの期間行うかは知事等の適正な自由裁量に委ねられていることなどを併せ考慮すると法律上強制的措置については知事等に大幅な裁量権が与えられているものと解され、また知事等以外に強制的措置許可申請ができるとの規定もないことから知事等の意向を無視して、裁判所において一方的に強制的措置許可決定をなすことはできないものと解される。従つて強制的措置許可決定は知事等送致にかかる事件でかつ知事等において強制的措置の必要性を認めている事件に限り許されるものと解する。ところで右に限定した事件のうち強制的措置許可決定をなすのは、少年法六条三項、一八条二項によるいわゆる強制的措置許可申請事件に限られるかについて考えるに、右条項の趣旨は、強制的措置許可決定が当該少年及び保護者の意思に反してもその自由を制約できるという人権上の問題が存する性質のものであるから、司法機関による判断を要することとしたものと解され、従つて裁判所が審判の結果、少年に対し強制的措置を要すると判断した場合には司法判断を経ているのであるから、右条項による以外においても強制的措置許可決定をなすことは、右条項の趣旨に反するものとは解されない。また裁判所が審判の結果少年に対し教護院送致を相当と判断し、かつ強制的措置の必要ありと判断した場合において、強制的措置許可決定ができないものと解することは、少年に対し当然予想される事態について臨機応変の処置が採れないこととなり、少年の健全なる保護育成を目差す少年法の趣旨に反することとなり妥当なものとは言えない。もつとも強制的措置許可決定が少年の自由を制約するものであることに鑑みれば、その必要性があるからと言つて、何らの法的根拠もなくなせるものではないことは言うまでもない。ところで少年法二四条一項二号においては、保護処分として少年を教護院に送致することができる旨規定しているところ、教護院には全くの開放施設たる教護院と強制的措置の採り得る教護院が存在しており、右条項においては送致し得る教護院としては強制的措置を採り得る教護院を除外していないことに鑑みると、保護処分として少年を強制的措置の採り得る教護院に送致できるものと解される。右場合において、送致する教護院の性質に鑑みると併せて強制的措置許可決定をなさなければその意義の大半を失うこととなり、少年法二四条一項二号において強制的措置の採り得る教護院への送致を容認している以上強制的措置を採り得る教護院への送致決定に併せて強制的措置決定をなすことを右条項は当然に予定しているものと解する。そこで右見解に基づき本件をみるに、本件は児童相談所長送致にかかる事件でかつ児童相談所長においても教護院送致に併せて強制的措置許可決定をなすことが相当である旨表明している事件であるから、主文のとおり教護院送致決定に併せて強制的措置許可決定をなすことが許される場合と解する。)

よつて少年法二四条一項二号により主文のとおり決定する。

(裁判官 加藤就一)

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